エリク・エリクソン

自らのアイデンティティを模索した形成期

 エリクソンは物心つかない頃に養子に出されて、生涯、実父に会うことはなかったそうです。アイデンティティの問題はエリクソン自身の人生に最初からついて回っていたのかも知れません。また、エリクソンは北欧系のユダヤ人で、ユダヤ人の中では北欧風の風貌のため、ドイツ人の中ではユダヤ人ということで疎外されました。アンナ・フロイトから訓練を受けたユダヤ系ドイツ人エリクソンは、ナチスが政権を握るとアメリカに亡命しました。いわば、自分自身がアイデンティティを模索し画家崩れのモラトリアム時代を、アンナ・フロイトに拾われただけで心理学も精神医学も専門的にやらなかったアウトローと言えるかも知れません。学位がないのに米国あちこちの大学で教授やっているのはエリクソンの影響力の大きさの表れでしょう。

ライフサイクル

 アメリカで問題を持つ青年の治療者として名を挙げたエリクソンはフロイトが思春期あたりまでにとどめていた発達段階を、人生全体に拡大し、包括的な独自の「ライフサイクル」論を提唱しました。

 各発達段階の課題を達成することで次の段階に健全な移行が進むとし、発達は生涯にわたるものであるとしました。

乳児期(基本的信頼vs不信)
幼児前期(自律性vs恥、疑惑)
幼児後期(積極性vs罪悪感)
児童期(勤勉性vs劣等感)
青年期(同一性vs同一性の拡散)
初期成年期(親密性vs孤独)
成年期(生殖 vs. 自己吸収)
成熟期(自己統合 vs. 絶望)

 個人の心理だけではなく各年代の社会的立場も含めて段階を考えたので社会心理的発達論とされます。そのため心理学を超えた広範な影響力を持ちました。

アイデンティティ・モラトリアム

 特に青年期に獲得されるべきとしたアイデンティティー(自我同一性)は、価値観・自己評価・職業意識などを統合し、環境が変化しても揺らがない「私はこれこれこういう人間だ」という一貫した実感を指します。

 社会的責任を引き受けるという課題を据え置いたままにしておく「モラトリアム」等の概念は日本でも流行しました。

 エリクソンの青年期に関するアイデンティティー論が大きな影響を与えていますが、人間が最初に環境に対して抱くべき「基本的信頼感」も重要な概念とされています。
 エリクソンは総合順位12位。精神分析派の中ではフロイトに次ぐ2番目です。

 エリクソンのライフサイクル論は社会的に大きな影響を与えました。発達心理学は幼児の発達を研究していましたが、ライフサイクル全体を対象とする生涯発達心理学へと展開しました。70才以上になっても総合的知性というべき能力はまだ発達を続ける事が明らかになりました。老年期には老年期の仮題があるとしたエリクソンがこのような動向の元祖と言えるでしょう。