サリヴァン

マイノリティーとしての人生

 ハリー・スタック・サリバンは、アイルランドの貧しい移民の子供として生まれ、その英語にはアイルランド訛りがあったという。1922年から1930年までシェパード・アンド・インノック・ブラッド病院で重症統合失調症患者の治療に当たる。そこでは、サリバンは「女性看護師のヒエラルヒーに接することは、母子関係で被った患者の傷を賦活する」ことになりかねないと危惧し、その反面「前思春期の同性同士の友情に治療性がある」と考え、わずか6床の男子病棟で、自ら徹底的な教育を施した男性看護師とともに、ホモ軍団と陰口をたたかれながら目覚ましい成果をあげ、生前から半ば伝説と化した存在であった。

 8年間の実践活動の後に1930年に辞任する際に行った決別講演をもとに『現代精神医学の概念』を出版。その後は、ニューヨークで外来治療を行った。そのころから、文化人類学・社会学への関心を強め、1928年からパーソナリティ研究会を運営し、その間、サピア、オルポートら文化人類学者・心理学者と交流する。1930年代後半から、ナチスから逃れて亡命してきた多くの精神分析家と交流した。サリバンは、第二次世界大戦をきっかけに精神衛生活動を重視するようになり、国際会議などに積極的に参加するようになったが、1949年その途上でパリで客死した。

対人関係への着目

 サリバンは、フロイトの生物学的なリビドー論に対して、人間の基本的な欲求を身体的満足を求める「満足への欲求」と他人の承認を求める「安全への欲求」の2種類であるとした。だが、そして、精神障害は、幼児時期における対人関係のパターンから出発したものである、と考えた。クレペリンの分類学に対しては懐疑的であり、むしろ患者と対人関係を持ちつつ観察するという「関与しながらの観察」を重視した。

パーソナリティ類型

 彼のはパーソナリティ障害をクレペリン風に分類することを避け、「個人の置かれている場を理解するうえで役に立つ発達症候群」という位置づけをしている。

 フロイトは性欲との関わりを重視した病理論を展開したが、この生物学的な人間観を嫌い、本能エネルギーではなく対人関係に注目したグループを「新フロイト派」という。サリバンは、その代表者として位置づけられることが多かった。だが、パーソナリティ障害の分野での彼の重要性は、新フロイト派としてではなく、パーソナリティ障害の6大流派の一つに数えられる対人関係論派の鼻祖と位置づけられていることによる。

1.かかわりあいのない人
 このタイプは、対人関係のかかわり合いの場を持つことができない。社会のルールの中にすっぽりと入っている体制にはなく、その場限りである。対人関係の失敗もあまり気に留めない。理屈っぽいが内容に乏しい。人生を体験する方法が通常と異なるので、現実体験に対して洞察する力も普通ではなく、粗雑である。過去にも未来にも関心がない。
 
2.自己耽溺者
 このタイプは、幼児期の「よい母親」のイメージを現実的に修正しないまま来ていて、何かを表彰するだけの大表彰的な空想のみが幼児期から使い古されずにいつまでも継続し、薔薇色の空想の中に浸って、それに変わる建設的な空想が現れない。すべてのものが黒か白かの二者択一であり、現実から学ぶ力がなく、自分に対する幻想を維持し続ける。
 
3.救いがたい連中
 洞察するきっかけとなりうる出来事を意図的に回避し、自分よりも劣る人間としか対人関係を持ち、自分よりも強い人間に対しては戦おうとはせず、ただ排斥する。他人の揚げ足取りを行ったり、権威のアラ探しをすることを好む。

4.あまのじゃく症候群
2番目のタイプと対照的であり、「自分には重要性がない」と思っており、「あれも嫌だ、これも嫌だ」と天の邪鬼な態度をとることによって他人の注目を引こうとする。このタイプは、「両親に無視されるよりも問題児でいた方がまし」という幼児期の対人作戦を継続しているので、その不平不満を周囲が少しでも受け入れるような姿勢を見せると逆に不満をあらわにし、さらに「そうじゃない」とひねくれる。だが、相手に逆らってさまざまな見方をしようとする習慣と高度な能力が結びつくと専門家として成功する場合も多々あるという。

5.吃音者症候群
 音声言語活動をコミュニケーションのためではなく、相手を見下すなど、他人を支配するために用いる。「言葉を発しようとしているが、発することができない」という状態を見せつけることによって、相手を支配する。対人関係のプロセスを停止させてしまう。
 以上は、発達初期段階の対人関係パターンに起源をもつものであり、言語活動がコミュニケーションの機能をまだ話していない段階での歪みである。
 以降の五つの症候群は、さまざまな文化的活動を経験しある程度文化に適用したあとでたあとで起こる両親やそれ以外の周囲の人間とのあいだの言語的コミュニケーションの歪みに由来する。歪みなどでさらに複雑なものである。以下、サリバンは簡単なものから複雑なものへという順に並べている。

6.野心一本槍型の人格
 他人を利用対象としてしか見ない人間である。利用価値がなければ、まったく関心を持たない。中には競争好きなタイプも、競争を回避しようとするタイプもいる。

7.交際嫌い症候群
 他人に対して、「居心地よい状態を維持したい」という動機しか持たない。きわめて敏感で、ささいなことで動揺し対人関係を放棄する。自己評価が非常に低く、他人から好意的に評価されるなどまったく予想もしていない。反対に、対人関係でひどく鈍感なタイプも存在する。行動に関しては、公式的な硬直した理想に基づいて行動する。他人の問題点も見落としてしまう鈍感さを示す場合もある。

8.あなた任せ型の人
 他人に依存することや、組織方針などのルールと自分を同一化することによって生きがいを感じる。自分にかまって決断をしてくれる自分よりも強い人間を探す。

9.同性愛症候群
 異性と関わることに対して「絶対にできない」から、「苦手な場面もある」というさまざまなレベルで障壁がある。前思春期以降の時期で同性とのかかわりの方を好む傾向見せる。マスターベーションで性欲を発散している場合が多い。

10.永びいた青春期症候群
 いつまでも「ふさわしい相手」を見つけることができず、現実に出会う人間に対しては、「やっぱりこの人も違った」と失望をくりかえす。「理想を追い求めては、独身主義を通す場合もある。失望する、ということを繰り返す場合もある。