摂食障害心理療法の基本 | 目的が明確な治療契約で乗り越えられる

過食症・拒食症への心理療法でまず大切なこと

 アメリカの摂食障害治療のパイオニアであるキャロリン・コスティンのアプローチは心理教育アプローチです。セラピストはガイド,コーチの仕事です。もちろんお説教などは絶対にし、脅すようなことも言いません。しかし、カウンセリングと同時に的確な情報提供も大切です。

「すぐに治る」なんてない。根気良く道を歩いて行くスタートは心理療法家と治療同盟を結ぶこと

 摂食障害セラピスト,キャロリン・コスティンはこうした成果についての研究を踏まえ,治療に一番重要なファクターは「治療関係」「治療同盟」であると主張しています。

治療のゴールに向かう治療契約はくじけない希望を持たせてくれます

 摂食障害の治療は長い旅路になることが多いと思います。モチベーションを維持することが困難になることもたくさんあるでしょう。
 実際,キャロリン・コスティンは,心理療法から脱落していくクライアントが多いと述べています。神経性過食症はまだ意欲があるでしょうが,神経性拒食症は「体重増加を極度に恐れて2%以下しか治療を達成できない」そうです。
 しかし,明確なゴールを持つことは大切です。「もし,治ったらどんなふうになるか」を常に心に持ちましょう。くじけそうになってもそれでも希望は最大の薬です。
 強制収容所のサバイバーはみんなしぶとく希望を強く持っていました。シベリアで捕虜になった日本兵は「日本に帰ってうまい米を食うんだ」と仲間を支え続けました。第二次大戦で生死をさまよった英国海兵は,「家族を思い出せ!」と互いを励まし合いました。

「あなた=拒食症・過食症」ではない。「摂食障害自己」は一部に過ぎないと割り切ってそれと対話してみよう

 キャロリン・コスティンは摂食障害治療にまず必要なのは,病んでいる「摂食障害自己」と「健康な自己」とを対話させることだと述べています。
 「摂食障害自己」とは異常な食行動に関連した思考・行動・感情がセットであり,これは「健康な自己」とは別個になっています。

 治療の最初の段階では摂食障害者は,生活の全てを「摂食障害自己」に支配されていますから,分離させることは難しいかと思います。
 しかし,治療過程の中で「健康な自己」を発達させていくうちに,「摂食障害自己」が明確となり,やがて対話ができるようになります。
 大切なことは「健康な自己」に働きかけ,「健康な自己が摂食障害自己に対してケアをするようになる」ことです。
「健康な自己」が強くなるにつれて,自己破壊的だった思考・行動・感情のパターンが変わり,そのうちに「摂食障害自己」は要らなくなります。

治療成功までどれぐらい時間がかかると言われているのか

 究極的には,体重計にのらない,直感的・本能的な食事が出来るようになることが理想です。
 ここまでいたって「回復」つまり治療の成功だとしています。

 文章で書くと簡単そうに見えますが,治療は2~7年以上はかかるものだと述べています。クライアントもセラピストもかなり辛抱強さを求められます。しかし,それでも努力の成果は必ず出てきますから,一進一退でも諦めないことです。治療を受けに来ただけでも,それは「健康な自己」が「助けを求める」という働きをしているからで,それだけでも既に前進しています。

 キャロリン・コスティンは自身の仕事を「摂食障害自己から解放された時に,健康な自己のもつ壮大さ・美しさを悟り,そして新しい生命を切り開く」,それを手伝うことだと言います。

心理療法の中で健全な自己を育てる

 大切な事は「治療関係」「治療同盟」です。
 なにしろ摂食障害の人は「糖分ゼロの甘えない自己完結した人」ですから,治療関係の中で,十分発達しなかった愛着を再教育していくことが何よりも大切です。その意味で,セラピストはお母さんですが,同時に正しい健康的な食行動パターンを形成するためのガイドやコーチでもあります。
 たとえれば,クライエントが車を運転し,セラピストは地図をもって道案内するのです。

治療の効果が上がると「今、何を感じているか」にセンシティブになってゆきます

 
 話が逸れますが,私が摂食障害のクライアントのセラピーを行っていて,良くなってきたという指標は,クライアントが自分が「今何を感じているのか」と言うことが明確になってくることです。これが出来る人は「よくなる人」と言えます。私も「あなたの病んでいる部分と対話する」テクニックを使いますが,このテクニックが使える段階で既に「今何を感じているのか」がわかる人になっています。
 もちろん,最初からこの段階にいる人もかなりいます。